【薬膳インタビュー】頭のよくなる食べ物について
今回インタビューにお答えいただいたのは、中医薬膳専門管理士 佐藤 和美先生です。
佐藤先生は生活習慣病や栄養に関する著書の執筆や研究をされていらっしゃって、今回も頭によい栄養とその組み合わせについてたくさんのお話をしてくださいました!
頭のよくなる食材を実際に調理したものは、お料理レポートにて『脳の成長を助ける食育メニュー』を紹介しています。
中医薬膳専門管理士 佐藤 和美先生
Q1頑張って勉強している子供達に母親の出来る事の1つとして、お食事に気を配ってあげたいのですが「頭がよくなる食べもの」はあるのでしょうか?
A1先ずは脳の栄養について考えてみましょう。
私達人間の脳は、その重量の割に多くのエネルギーを必要とすると言われています。
脳自体は、ブドウ糖のみを使ってエネルギーとしています。ブドウ糖が足りないと理解力、記憶力などに影響するという研究結果もあります。しかし、私達が食事をする時にブドウ糖のみ摂取する事は、まずありませんし、ブドウ糖のみ摂ればよいわけではなく、三大栄養素やビタミン・ミネラルを過不足なくバランスよく摂取する事が重要です。
特に成長期ともなると日々の成長に欠かせない体を作る素と言われる「たん白質(アミノ酸)」を十分に摂らなければなりませんが、その中でも体内で合成できない9種類のアミノ酸(必須アミノ酸(※1))を含む良質のたんぱく質を摂る事が大事です。
大豆など必須アミノ酸を含む良質のたんぱく質を摂る事が大事
また、必須脂肪酸(※2)であるω6系脂肪酸やω3系脂肪酸も体内で合成できないので食べ物から摂取しなければなりません。
このような点を踏まえて、その子供に合ったバランスのよい食事を作ってあげて「頭のよくなる」と言われる食品を上手にチョイスして取り入れる事が何よりも大切な事なのです。
- (※1)必須アミノ酸:穀物に多く含まれるトリプトファン、メチオニンや、豆に多く含まれるイソロイシン、リジン、牛乳、卵、肉など多く含まれているフェニルアラニン、その他トレオニン、バリン、ロイシン、ヒスチジンが必須アミノ酸とされています。これらを不足しないように摂取することが大切です。
- (※2)必須脂肪酸:ベニバナ油、ゴマ油などに多く含まれているω-6系脂肪酸と、サバ、サケ、イワシ、タラ等の魚介類に多く含まれているω-3系脂肪酸が必須脂肪酸とされています。
Q2集中力アップによい栄養素、記憶力アップによい栄養素、やる気アップによい栄養素はどういったものでしょうか?
A3前述しましたように、脳は、ブドウ糖のみを使ってエネルギーとしていますので、十分な量を摂取しなければなりません。
また、ブドウ糖をエネルギーとして利用するには、ビタミンB1が不可欠です。
ビタミンB1は穀物に多く含まれます
ビタミンB1不足のためにエネルギーが不足すると、脳は中枢神経、末梢神経のコントロールが十分にできなくなり、精神が不安定になったり、運動神経の低下、集中力の低下などを招きます。
ブドウ糖は、体内で長時間蓄積しておけないので、規則正しく食事を摂取する事が重要です。他にも後述の様な脳の活性化に関係する栄養素、ビタミン・ミネラルがあります。
必要な栄養素
1. DHA、ω3系脂肪酸
DHAは青魚に豊富
もう随分前になりますが、「魚を食べると頭がよくなる」という歌が流行ってスーパー等の鮮魚売り場で流れていたのを覚えていらっしゃる方も多いと思います。
記憶学習機能を司る「海馬」には多くのDHAが存在し、脳細胞間の情報伝達や、神経細胞の成長を維持しています。このような事から、「頭がよくなる」ともてはやされました。
また、DHAは、ω3系脂肪酸に分類されていますが、この脂肪酸も脳の細胞膜の機能および細胞情報伝達に重要な役割を果たしています。ω3系脂肪酸の欠乏は脳機能に影響を及ぼして発達を遅らせる可能性があります。
血液の循環をよくする働きもあり、脳の血液循環がよいと集中力、記憶力の向上に繋がりますが、酸化されやすいので注意が必要です。
2. カルシウム
小松菜などもカルシウム豊富
脳細胞内には、一定の濃度のカルシウムイオンがあり、記憶に関する情報伝達をしています。
カルシウムが不足すると、脳細胞中の濃度のバランスが崩れ、神経細胞からの情報がスムーズに伝達されなくなります。
カルシウムはその99%までが、骨や歯の中に含まれていて、カルシウムは、ビタミンDやリンなどの助けをかりて骨の主成分となります。カルシウムの腸管からの吸収にはビタミンDが必要です。
カルシウムとリンの割合は常に一定に保たれている関係にあるのですが、リンの摂取が多すぎると、腸管内で不溶性のリン酸カルシウムとなりカルシウムが利用されずに排泄されたりするので注意が必要です。
3. 亜鉛
牡蠣に含まれる亜鉛は
脳の機能に大切
大脳や皮質に多く含まれ、不足すると脳の神経伝達物質が十分に分泌されないため、脳の機能がうまく働かず記憶力や集中力に影響すると言われます。
味覚や免疫機能にも関与しています。
4. 葉酸
納豆レバーほうれん草は葉酸豊富
葉酸は、二分脊椎などの神経管閉鎖障害発症のリスクを低減させることが報告されていて、積極的に摂取されている妊婦の方も多いと思います。
葉酸は、ビタミンB群の仲間でDNA、RNA、たんぱく質などの合成に関わり、細胞の分裂や増殖時に重要な役割を果たしています。脳の神経細胞の働きを維持する栄養素でもあり、不足すると神経伝達障害がおこります。
ビタミンB12やビタミンCと共存すると効果が大きくなります。
5. ビタミンB12
ビタミンB12はレバー類や魚類で
ビタミンB12は、「脳のビタミン」「神経のビタミン」と呼ばれ、脳神経の働きに深く関っています。ビタミンB12によって脳血管や脳神経の再生・修復が行われる事が報告されています。
6. ビタミンC、E、セレン
ビタミンEはナッツ類で
これらのビタミンは、抗酸化作用により、体内の細胞膜の酸化による老化や動脈硬化などの疾患を予防すると言われています。
ビタミンCは熱に弱く調理による損失が多いので、生で摂る物を選ぶとよいでしょう。
7. レシチン
記憶力には豆類を
レシチンは、記憶をつかさどる神経伝達物質であるアセチルコリンの材料になります。不足するとアセチルコリンの量が減って情報の伝達がうまくいかなくなり記憶力の低下の一因となります。
Q3脳の成長や活性化に必要な代表的な食材を教えて下さい。
A3
- 1. DHA
(ドコサヘキサエン酸) - 鮪(まぐろ)、鯖(さば)、さんま、鰯(いわし)、鮭(さけ)など
- 2. ω3系脂肪酸
- 青魚、えごま油、しそ油、アマニ油、胡桃(くるみ)、緑黄色野菜、豆類など
- 3. カルシウム
- 牛乳、乳製品、骨ごと食べる魚、殻を食べる海老、ほうれん草、小松菜など
- 4. 亜鉛
- 牡蠣(かき)、牛肉、からすみ、豚レバー、ピュアココア、煮干し、ごま、ナチュラルチーズなど
- 5. 葉酸
- レバー、モロヘイヤ、枝豆、ほうれん草、アスパラガス、ブロッコリー、納豆、ほたて、焼き海苔、いくら、すじこ、苺など
- 6. ビタミンB1
- 穀物、シリアル、大豆、落花生、レバー、卵黄、魚卵、しらこ、豚肉など
- 7. ビタミンB12
- 牛レバー、鶏レバー、豚レバー、さんま、あさり、牡蠣(かき)、しじみ、はまぐり、赤貝、鯖(さば)、鰊(にしん)、紅鮭(べにざけ)、ほたるいか、たらこなど
- 8. ビタミンC
- 赤・黄ピーマン、菜の花、ブロッコリー、西洋南瓜(かぼちゃ)、柿、オレンジ、キウイ、レモン、苺など
- 9. ビタミンD
- 黒かじき、紅鮭(べにざけ)、身欠き鰊(にしん)(=鰊の干物)、さんま、かわはぎ、あんこうの肝、鰯(いわし)丸干し、卵、干し椎茸など
- 10. ビタミンE
- アーモンド、ヘーゼルナッツなどのナッツ類、ひまわり油、サフラワー油、米ぬか油、コーン油、なたね油など植物油、鰻(うなぎ)、たらこ、アボカドなど
- 11. セレン
- 鰹(かつお)、鰯(いわし)、たらこ、ま鰈(まがれい)、かに、甘鯛(あまだい)、きはだ鮪(まぐろ)、めばち鮪(まぐろ)、豚マメ、牛マメ、豚レバー、あんこうの肝、たらこ、ずわいがに、ひまわりの種、玄米など
- 12. レシチン
- 大豆の煮豆、豆腐、納豆、枝豆、おから、黄粉、ピーナツ、レバー、卵黄、小麦全粒粉、ごま油、小魚など
Q4最近は小学生、中学生の頃から塾に通っている子供達も多く、夜遅くなってお腹がすくので塾帰りにコンビニでお菓子を買って帰ったり、ファーストフード店で軽く夜食をすませたりする子供達を見かけますが、子供の体にとってはどうなのでしょうか?
A4色々な食品を挙げましたが、栄養が満たされていればよいという訳ではありません。
ファーストフード、お菓子は生活習慣病の原因に
健やかな成長には睡眠・休養・適切な運動が大切です。生活環境の乱れは学習意欲・気力・体力の低下の要因となります。
孤食、個食などの問題があげられる昨今ですが、楽しく家族や友人と食事をすることも健やかな成長に欠かせません。
ファーストフード店のメニュー、お菓子類は、高エネルギーで砂糖や脂質を多く含み、塩分も多い傾向にあります。
食生活の変化と伴に肥満傾向の子供が急増しています。大人の病気と考えられがちな生活習慣病ですが、高エネルギーの食品の摂取の影響で内臓脂肪が蓄積し、子供であっても高血圧、糖尿病、脂質異常症などが増えてきています。成長期の最も大事な時期ですので、子供の健康を守るためにも出来る限りお母さんの手作りのごはんやおやつを食べて欲しいと思います。
簡単に出来るお夜食メニューを『脳の成長を助ける食育メニュー』にて紹介しています。
プロフィール |
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【佐藤 和美】
昭和51年 名古屋栄養短期大学食物栄養科卒業。
主な著書と研究 |